多くの質問を受けまして、できる限り調査をして、そしてステンレスの研究者様の意見を聞いて、答えてきました。が、しばらくHPを通してご質問を受けることを休止させてください。大変申し訳ございません。
業務が多忙ということもあります。が、最近あまりにも特定しづらいことばかりで困っています。細かい成分分析をしたものを私に送られましても、全体的な状況をみてみないことには、判断できません。 さびを採取して、分析をしなければわかりません。想像される以上に、分析業務というのは時間とお金がかかるものであります。 また、返事が遅いからと、お怒りをいただき、あまりにも失礼すぎることもありました。そこまで細かくわかるのであれば、それを製造した業者様や販売した業者様にお問い合わせをください。 このHPを見てくださる方々には大変申し訳ございませんが、よろしくご理解の程お願いいたします。だからと言って、見て下さる方々が多いと思いますので、 役に立つ情報を開示していくことには使命を感じます。今後は、私のお客様からのご質問にお答えした中から、お役に立つと思うことをドンドン載せていきます。
以下のようなご質問をいただきました。(順不同)
質問集
Q1:錆についての説明でSUS304はステンレスの中ではさびやすいと書かれていましたが、他社では、キッチンを買う時にステンレスSUS304が錆びづらいと勧められました。どちらが本当なのでしょうか?
Q2:不導態皮膜について、時間に対する生成厚さについての質問。ステンレス鋼棒材を切削した後は、不導態皮膜が破壊させた状態になっていますが、その後空気中にある酸素と鋼中にあるクロムが結合して、不導態皮膜が生成されるとしたら、どのくらいの時間でどのくらいの厚さになるのか?
Q3:ステンレスとは電気を通しますか?
Q4:ステンレス容器の耐食性について(1)
Q5:ステンレス容器の耐食性につてい2(上記の説明に関して、さらなるご質問)
Q6:ステンレスの純水での腐食について
Q7:不導態皮膜について(1)
Q8:不動態皮膜について(2)
Q9:溶接に対するステンレスのさびについて
Q10:湿気などに対しての焼き入れ鋼について
Q11:不動態皮膜とは絶縁体であるのかどうか?
Q12:淡水の場合は?
Q13:鍋の中に白い点??
Q14:アルカリについて
Q1: |
錆についての説明でSUS304はステンレスの中ではさびやすいと書かれていましたが、他社では、キッチンを買う時にステンレスSUS304が錆びづらいと勧められました。どちらが本当なのでしょうか? |
A: |
そのSUS304を勧められた方の説明は正しいです。通常の使用の場合を考えた時に、例えば、すでに多くの家庭で使用されているキッチンに錆がでていないということからもわかります。このあくまで、「通常の使用」というのは、こまめに手入れをし、さびは発生させる原因となる塩分を付着したままにしておかない、ということをさします。(また、海の近くなど、塩分の濃い環境も除きます)塩分の強さということから別の例で見てみますと、ステンレス製カレー皿の場合に、カレーの食後の皿を洗い乾燥させておくことによって錆を防げることになりまうす。 |
Q2: |
不導態皮膜について、時間に対する生成厚さについての質問。ステンレス鋼棒材を切削した後は、不導態皮膜が破壊させた状態になっていますが、その後空気中にある酸素と鋼中にあるクロムが結合して、不導態皮膜が生成されるとしたら、どのくらいの時間でどのくらいの厚さになるのか? |
A: |
材料の研究者(N社)からご回答いただきました。
「正確に何秒であるか、測定したことがありません。切削している途中でも、空気に触れたらすぐに不導態皮膜(厚さはだいたい弊社HPにあるような厚さ。一般的に言われている厚さになります。)を生成させます。」とのことです。
何秒くらいだと思いますか?と聞いたところ、「1、2秒という単位ではなく、それ以下くらいの本当にすぐ。」とのことです。
測定する機会はあるにはあるとのことですが、測定したことはないとのことでした。 |
Q3: |
ステンレスとは電気を通しますか? |
A: |
ステンレスは電気を通します。ただし、鉄と比較すると電気抵抗は大きくなります。
[電気抵抗]
鉄 |
9.71×10(superscript:-6)Ωcm |
SUS304 |
72×10(superscript:-6)Ωcm |
SUS403 |
60×10(superscript:-6)Ωcm |
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Q4: |
ステンレス容器の耐食性について(1)
調味液の試験などの際、ステンレス製の容器(ジョッキ型や寸胴鍋など)で調合したり保存している現場で、次のような液物性の調味液が316ステンレスにて適しているかどうか?(酢酸濃度:5%/塩分濃度:23%/糖度:32/PH2.8/調合後1-2週間程度常温保存) |
A: |
耐食性について・・・
提示された調味料は、塩分濃度が高く、また、酢酸も混入しております。塩分だけでも濃度が高くステンレスに対し決して良い環境とはいえませんが、これに酢酸も混入すると更に悪条件となります。
過去の事例では、同様の調味料に対しSUS316でも5日程度で腐食を生じさせたことがあり、今回のケースにあまりお勧めできません。
PHが低いほど腐食性が高く、SUS316では限界値は1.5程度で上記調味料ん異体して安全な領域と読み取れますが、塩分(塩素環境)が混入していますので、限界PHが上昇し腐食環境になります。(塩素だけですとPH7程度でSUS316で使用可能と考えますが、酢酸が混入してPHを低下させていますので、SUS316でも腐食環境にあります。また、酢酸のみでしたら、PH2.8で塩素による影響がないため) |
Q5: |
ステンレス容器の耐食性につてい2(上記の説明に関して、さらなるご質問) |
A: |
掲示された調味料は、塩分濃度は低くなりますが、過去の調査では塩分濃度が減少してもPH2.8と低い県境では腐食の発生が認められ、発生程度は高濃度のものと大差ありませんでした。境界線は塩素濃度2-3%付近で、これ以上の濃度で且つPH3以下の環境ではステンレスに対し腐食環境であると言えます。
SUS316LのLはLOWカーボン材の意味ですが、表面の耐食性はSU316と大差ありませんでした。(ただし、溶接部の耐食性に対しては有効です)従って、SUS316Lに変更しても効果はあまり期待できません。
今回保存期間が短期間ということですが、保存期間が数日でも多少の腐食は発生しますので、実際に試験し、そのレベルが確認され判断されるのが望ましいと考えます。 |
Q6: |
ステンレスの純水での腐食について
- 純水(17MΩ・cm)をSUS304の配管に流したいのですが、腐食の危険はないか
- もしも腐食するのであれば、どのくらいの期間で腐食が進行するのか
- 純水の程度に応じてSUS材を使い分ける必要があると思うのですが、何か目安はあるのでしょうか?
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A: |
配水管にステンレスを使用することは問題ありませんが、水質によってはSUS304では腐食が生じるためSUS316、NSSSCRなどの鋼種が必要となります。
ポイントは(1)温度(2)PH(3)残留塩素イオン濃度(OC1(superscript:-))(4)塩素イオン濃度(C1(superscript:-))(5)Mアルカリ度(重炭素イオン)
で以上の資料を参考下さい。
寿命については、解答が難しく、腐食環境域でありましたら、短期間で腐食発生する可能性があります。腐食環境でなければ末永く使用可能です。
>>参考資料(PDF) |
Q7: |
不導態皮膜について(1)
- 不動態皮膜が不安定になるとは、具体的にどのような状態になるのか?
- 空気の酸素濃度が約21%と考えた場合、酸素濃度が約何%以下になると不動態皮膜に対して影響を及ぼし始めるのか?
- ステンレスの上に空気を通さないシートをのせて加圧した場合、同じく酸欠の状態になる可能性はあるのか?
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A: |
- 不動態皮膜はCrの酸化物であり、科学的に非常に安定です。ただし、塩素などの酸に弱く、不動態皮膜が破壊されます。
- 不動態皮膜は非常に安定であるため、酸素濃度によって影響は無いと考えます。ただし、不動態皮膜が活性化状態(酸処理などで)で、酸素の供給がない場合、酸化皮膜に影響を与えます。極表層は酸化物であるため、酸素が供給されなければ、不動態皮膜も形成されません。
- 不動態皮膜に影響は無いと考えられます。
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Q8: |
不導態皮膜について(2)
ステンレスの不動態皮膜の生成は酸素があればすぐ(1秒以下)に生成されるとありますが、温度依存性はどうなのでしょうか?酸素があっても500℃、600℃くらいでは不動態膜のでき方、膜厚、性質に差が出るのでしょうか? |
A: |
ステンレスと言えども、高温において不動態化皮膜は形成されず、参加が進みます。高温になればなるほど、その進行は進み板厚減少していきます。
500、600℃は一応SUS304の使用可能領域ですが、表層部は酸化膜(不動態膜ではない)が形成されると思って結構です。 |
Q9: |
溶接に対するステンレスのさびについて
- 溶接部分は素材に比べて錆びやすいのですか?錆びにくいのですか?同等なのですか?(「酸化している」と考えると錆びにくいのかな?)
- シールド溶接は酸化を防ぐ意味があると聞きました。シールド溶接した部分というのは素材に比べて錆びやすいのですか?錆びにくいのですか?
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A: |
- 溶接方法によりますが、一般的には溶接部は素材部分より耐食性が劣ります。特に素材と溶着部の境界に炭化物が集まりやすいので、溶接線、棒でNiやCの低い308ULCを使用します。
- 空気中の酸素と取り込み、Fe2O3.Ce2O3のような酸化スケールを巻き込むと、その部分から腐食が始まります。応力のかかるような商品は、応力腐食割れという錆からひび割れになります。一般的にバックシールドとは、酸化を防ぐためにアルゴンでシールドします。
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Q10: |
湿気などに対しての焼き入れ鋼について
- SUS403はSUS304に比べてさびやすいと認識していますが、SUS430に焼き入れ(ギアなど)した場合はさびにくくなるでしょうか?例えば、SUS304と同等程度になるなど
- S45Cに焼入れなどは焼入れしない場合に比べてさびにくくなるのでしょうか?
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A: |
- SUS430は、一般的に焼き入れはできません。ステンレス鋼の焼入れは、C 0.08%以上であり、SUS410、SUS420J1、SUS420J2という鋼種になります。
- S45Cとは、C 0.45%で焼入れ、焼戻し後は、表面に焼入れ、焼戻しにより炭素が鋼に固溶化して丸い粒になること、および酸化皮膜(黒っぽいスケール)が酸化を防ぐことになります。(チェーンなど)
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Q11: |
不動態皮膜とは絶縁体であるのかどうか?
お客さまの機械で、ステンレス製のバネ材を使用してスイッチ代わりに使用しているのだが、不具合が起きて来るということです。これは、きっと不動態皮膜が影響しているのではないかと推測しています。 |
A: |
- 電気接点材料とは、電流断続部の接点に使用される金属、または合金で電気伝導率の良いものが使用されるが、耐磨耗性、耐スパーク性、耐変形性が要求される。一般的には、銀−タングステン系、銀−モリブデン系、銀−ニッケル系、金−バナジウム系の合金が使用させる。しかし、これらは価格的に高価であることから、ステンレス鋼のバネ性や加工性の利点を生かし、使用されている。
- ステンレス単独使用では欠点がある。それは、電気抵抗が高く、熱伝導率が低いことがある。
種類 |
熱伝導率 |
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ステンレス鋼(SUS340) |
0.050 |
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ステンレス鋼(SUS301) |
0.39 |
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銅 |
0.92 |
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金 |
0.70 |
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銀 |
0.974 |
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ニッケル |
0.142 |
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[単位]Cal/cm/・℃ |
もっとも良いのは、金・銀・銅であるが、銀や銅は耐磨耗性が悪いことから、最近ではステンレス鋼のバネ性と表面にニッケルめっきを施したものが使用されている。
以上のようにステンレス鋼の不動態皮膜ではなく、電気抵抗が高く、熱伝導率が悪いためである。ボタン電池などは、ステンレスSUS304とSUS430が使用され、銀メッキやニッケルめっきをして使用される事例である。 |
Q12: |
淡水の場合は?
貴社HPに「さびについての説明」がありますが、SUS316は耐食性に優れているとありますが、例えば、海水魚用水槽(塩分の濃度、水2.7リットルに対し塩分80グラム)の海水の中にSUS316で制作した容器を入れっぱなしにした場合でも「さび」は発生しませんか?また、淡水魚の場合、魚の糞や餌の腐敗など(アンモニア、亜硝酸塩)が発生しますが、この場合の「さび」の発生はどうでしょうか? |
A: |
海水の中にSUS316を入れると「さび」は発生します。SUS304と比較して、さびの発生がしづらいと言うことだけです。こまめなお手入れをお願いするしかありません。海水中で使うことが確実な場合にはチタンやスーパーステンレスを使用することをおすすめします。
淡水ですが、研究者に確認したところ、アンモニア、亜硝酸塩がどのくらい発生するかにもよると思いますが、基本的に淡水中であれば問題ないと考えます。ただし、このような製品は定期的に洗浄などを行い、汚れを取ったほうがよいと考えます。汚れがついて、その汚れの中にステンレスをさびさせる要因となるものが含まれているかもしれませんので。(すみませんが、淡水魚が何を食べて、どういった糞をするのか知識がありません。)
あくまでケースバイケースなので、実際に実験してから製造されることをおすすめします。 |
Q14: |
アルカリについて
ステンレス製品にアルカリ溶液は? |
A: |
一般にはアルカリ溶液は腐食しづらいですが、高濃度および高温では腐食する可能性があります。使用液の化学成分、濃度、温度を確認したほうが良いと思います。
参考資料:1ページ 2ページ (pcx) |
<<さびについて|さびについてのQ&A
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