モノはとりあえず在庫しても腐らないから食品を扱うよりは簡単だろうと、近所の八百屋のトシちゃんは言います。しかし自分も職人でありながら対面販売を生業としている者ですので、そんな甘い商売などこの世にないなんて百も承知です。実際の実演販売の場面では、食品関係のお買い物袋を一杯つらさげたお客様達が通り過ぎるのを横目で見ながら「やっぱり食べ物のように直接人間の本能に訴えかける商品は強いよな」と思います。何のことはない先のトシちゃんじゃないけど、食材には食材の悩みがあり、ただ単に「隣の芝生が綺麗に見える」だけなのです。
相哀れんでいてもしょうがありません。実際グループで販売をしても、売れる所はちゃんと売り上げを出しています。全てがそうだとは言いませんが、ある程度なら自助努力で何とかできるのではないかと思い直しましょう。坪源の最近の傾向としましては「衝動買いは¥500-」です。この値段のアイテムが一番数量でますが、いかんせん単価が安すぎです。百個売って五万円。中には一個五万円以上するような茶器や包丁などを売る人がいるのに、これではあまりにも地味すぎる商売です。
はたらけどはたらけど、我が暮らしら楽にならざり...とはかの有名な石川啄木の一節ではありますが、そういう啄木はろくに仕事をせず借金しては酒食ドンチャンやっていたらしいという説もあるくらいですから、人間わかったものではありません。
とはいえ「楽して儲ける」とは、人類発祥以来、永遠の懸案として脈々と語り続けられてきた幸福へのキーワードです。こうして書いていると、いかにも高額商品をバンバン売っている皆さんが楽しているというふうに聞こえますが、決してそうではありません。きっと彼らは彼らなりに、白鳥が優雅に泳ぐ水面下では、足で絶え間なく水を掻いているが如く、見えない努力があるのです。しかし坪源よ、いくらなんでも¥500-が主力商品ではあまりに寂しすぎないか?何かもっといい方法はないものかと、考えあぐねていました。
実演販売の中なにげに売れている人の商品を観察してみました。すると一つの答えが見えてきました。伝統に裏付けられ、地域の特性に根ざした、まずここで逃したら二度と手には入らないであろう一期一会な逸品。要は「いいもの」です。身の蓋もないか。我が身を振り返ってみると「伝統」...ない「地域性」...ないない「いいもの」...なのかな〜(←おいおい)なんか自信のない商品ばかり。そうだ自身を持とう。自分の技術に自信を持って「コレは私が作りました、どうぞお買い求めください」と強力にプッシュしようと考えました。
しかし、自分だけが自分の腕に自身を持ってプッシュしても、それが本当によいかどうかなんて、人にはなかなか伝わらないものです。むしろ自意識過剰「井の中の蛙、大海を知らず」ひょっとして結構恥ずかしいことかも知れません。なら、自分の技術を他人に評価してもらおう
誰もが知っている公募展に応募して入選して名前を売り、自分に自身をつけよう。志は高いが、そんな世の中思い通りに行ったら、人生バラ色です。で、何が悪戦苦闘かというと....出せども出せども入選しない。落選続き、これに尽きます。何だ、結局だめだめジャン...と結論を早まらないでください。確かに何か間違っているのかも知れませんが、多少なりとも努力を認めてくれる人もおりますので、決して無駄ではないでしょう(落選カモ敗者復活参照)
それでは2003年に公募展に挑戦した個々の応募作品について検証してみましょう。
コレは会場に搬入寸前に撮った写真。しっかり新聞紙で緩衝してありますね。自信はなかった、と言えばウソになります。しかしコレはあまりに安直過ぎたか。カラスが三羽怪しげなお話ししている姿です。なにやら悪辣な表情の輩もおりますが、その辺がタイトルのゆえんでもありまして、かなり楽しんで作りました。材料は工房にごろごろしていた桂材。デコイの主材料です。
作風といった大げさなものではありませんが、商売がら鳥を作るのが好きでして、今までも鳥の彫刻ばかり作って来ました。自分の思いみたいなものを鳥の形状で表現できたらと。何で鳥なんだろうとも考えましたが、自分の場合は出発点が鳥だったので、コレしかない、しょうがないと鳥一直線で今まで来たのですが...
だめかな〜やっぱ人体じゃないと、なかなか認めてもらえないのかな〜と、かなり落ち込みました。それならと作ったのが次のものです。
とにかく一度試しに人間の顔を作ってみようと。しかしモデルなどはいないし、手近なところで娘の顔でも作ったのだが、いいも悪いも娘にはちっとも似ていない。家族には大失笑を買ってしまい、あまつさえ娘には「にてねえ〜キモイ」と散々です。そこでタイトル。本当は普通に「娘」としたかったところですが「十年後」とまるでいいわけするように付け足しました。コレなら文句もあるまい(そうか?)
材料は知り合いの材木屋さんからもらった「黒檜(くろひのき)」確かレッドシダーとか言う商品名でホームセンターで見かけるのと同じです。コレを縦に何枚か接着して、それを彫刻。最後の仕上げに絵付けをして完成させましたが...
写真でもわかるように、絵付けしなかった方がよかったかもしれません。初挑戦の顔は難しかったです。特に木彫の場合、失敗して削りすぎても粘土のようにあとで盛り直す訳にはいきません。普通は粘土でエスキースを作ってから、おもむろに本番の彫刻に入るのですが、自分の場合はいきなり削りだします。なぜなら「粘土」持ってないから(←おいおい)
コレに関しては全然自信などありませんでした。なら応募しなければよかったのに、そこは私も人の子。せっかく作ったのだから、試しにチョット出してみようと...なんと入選。他でもない本人が一番驚いてしまいました。
人の評価と自分の評価は必ずしも一致しない。それとも「お情け」だったのでしょうか?来年はもっとましなヤツ作りますので、勘弁してやってください。
この時気が付きましたが、檜は彫刻には向きません。あまりに柔らかすぎて、のみ痕が綺麗に残りません。サンダーなどで削りだして造形したほうが、綺麗に仕上がるでしょう。また、貼った材料ではなくて無垢の材料で作りたいです。もっともそんなのは手に入りませんが...桂材ならあるのですが、彫刻をするお客様に売っちゃいます。商売優先です。
鳥です。フクロウです。娘の顔を作ってがっくりしてしまったので、鳥を作ろうと思いました。タイトルも漢字一文字で「梟」とし、ややぶっきらぼうな観は否めませんが、ここはまた初心に戻った感じです。 前回の「柔らかい木は彫刻向かない」を反省して、今回は木の中でもかなり堅い部類に入る「欅(ケヤキ)」を使いました。まだ坪源がデコイを作る前にやっていた墨壺の材料です。サスガに木目も綺麗でしたし、何より堅い木は細かな表現がうまくできるのでいいです。いいですが、いやほんとうにもう「堅い」のですよ、これが。参った。手はマメが潰れ、肩こり腰痛筋肉痛とヒドイ目に遭いました。
なにか製作のコツがあるに違いない。この機会に他の職人さんの墨壺(ケヤキ製)を観察して見ましたが、なるほどうまくできている。ある必要な形状を彫るためには、それに適したのみがある。一刀彫とは対極にある方法ですが、極めて合理的ではあります。つまり「丸を彫るためには丸いのみがあり、角を際だたせるためには角のみがある。ないときは、のみを作る」自分も彫刻ではなくて絵付けの時にはやります。描きたい形状にあわせて筆を作る。やっていることは一緒なのです。
さて、普通の彫刻職人と墨壺職人との一番の違いは何でしょう?それは材料を足で押さえることです。コレをおやじに話すと「そんなことは当たり前じゃないか」と言われますが、この当たり前が実はできないのですよ、普通。じゃチョットあぐらで座ってください。そしたら足で材料をしっかり押さえてください。いたたたた。そんな柔らかな体していませんよ。なぜ足で押さえるかというと、彫刻するときには右手にのみ、左手に玄能(金槌のこと)を持ちます。すると材料はどうやって押さえたらいいの?必然的に足で押さえます。コレは彫刻を施す材料が小さな墨壺だからこうするのであって、欄間など大きな作品の場合は、材料の自重があるから押さえる必要がないからでしょう。
墨壺職人の家に生まれながら、実はこの材料を足で押さえる事が自分にはできません。ではどうしたかというと...それは企業秘密です(←おいおい)自分の場合はどちらかと言えば一刀彫にスタイルが近いので、ほとんどのみを玄翁で叩くことはしません。粗削りはサンダーでの削り出し(それでも堅い木だと摩擦熱で焦げちゃってたいへん)でします。長年慣れた方法と新たに考え出した方法をうまく組み合わせて作品を作っていくのが、自分の作風として確立しつつあります。
この作品には後日談がありまして、市展も終わりしばらく経った頃に、地元の有名な彫刻家の先生からお手紙をもらいました。早速返事をだしましたら、今度はお電話いただき、いろいろアドバイスしてもらいました。コレを機会に交流がもてたらいいなあ〜なんて思いました。
そうそう、肝心の作品ですが搬出後工房に数日飾っておきましたら、気に入ったお客様があっという間に買われて行かれました。現在工房に見に来ても、ありません。
今年度最後の応募作品となった作品でしたが、あえなく落選でした。2003年は何度かコアジサシの問い合わせが来て、コアジサシのデコイなども作りましたので、なかなか思い出深い鳥となりました。もっとも本物は見たことありませんが。どうも新潟近辺にはいないようです(求む情報)カモメはたくさんいるんだけれどもな〜絶滅危惧類だということも知りませんでした。日本中にけっこういるものだと思っていました。ならなぜ新潟では見かけないのだと、おこられそうですが。
今回落選してしまいましたが、自分的にはこれが一番のお気に入りでして、来年には少し手直しを加えて、鳥専門の公募展 に応募してみたいと密かに狙っています。
材料はお馴染み桂材。そして今回の趣向として、展示台に「ななかまど」を使ってみました。長年自宅の猫の額ほどの庭に生えていたものです。手入れが悪かったのか、病気になり、もうダメということで切ったものです。加工中になかからカミキリムシの幼虫がぞろぞろ出てきました。これが病気の原因だったのだな。全部取り除いたつもりですが、ひょっとしてまだ中に生きているかも知れません。もしどこか買われていった先でもそもそ這い出たとしたら、それもご愛敬です。見た目はグロいですが、シロアリなどと違いかなり偏食の強い虫ですので、建材などは食べません。ナナカマドやケヤキ、カシなどのメチャクチャ堅い木が好みのようです。
それなら大きく作ればいいのですが、ここが木の難しいところ。当然材料が大きくなれば材料費も高くなりますが、体積が二倍になったから値段も二倍というわけにはいきません。五倍十倍当たり前です。それだけまとまった大きな材料があるわけがない。いや、日本だってきっとあるには違いないのでしょうが、この林業不況(ご多分に漏れずこの業界も)のおり、ものすごい経費を掛けて山から材料を切り出してこれないのですよ。その前に私にはお金がないんですけれど...自分の場合は工房で昔に買っておいた材料をコツコツ使っているのでして...だから大きな材料がないのです。
それでも工房内で作っているときはかなり大きいようにも思えるのですが、いざ搬入しますと、他の作家の作品の大きいこと。それに加えて展示会場もかなり広いところばかりなので、よけいに小さく見えちゃいます。このスケール感の違いをなんとかしなけれんばなあ...もっとも今回の作品のもとになったコアジサシなどはヒヨドリくらいの大きさしかありませんから、大きく作れと言われましてもねえ〜アジサシになっちゃいます。彫刻でモデルがある場合はそれより小さく作る事はよくあっても、大きく作ることは(ないとは言いませんが)希なことでしょう。
レッドデータブックの常連さんだったコアジサシ。なんとか人間どもと仲良くやっていこうよ〜との願いをこめて作った作品でしたが、残念です。
来年も多分懲りずにいろいろな公募展に挑戦していくと思います。こうして何度か応募を繰り返していると、何通も公募展への応募用紙が送られてきます。するとまた作品作らねばとファイトが湧いてきます。来年の今頃にはもっとうまい具合に行ったと沢山報告できるように頑張りたいです。
もっとまめにコラムで彫刻作品を報告すればよかった
実作業に翻弄されて、サイトの更新が後回しになってしまいましたが、今年はこれで辻褄をあわせたということでお終いにしたいと思います。
2003年12月11日