フレアを決める

 フレアは機体によってかけ易さの違いはありますが、フレアに適したポイント、タイミングは基本的に同じです。問題はそのタイミングを確実に見極めるにはどうするかです。

 初中級機でいつも海岸の安定した気流中でランディングするなら、フレアのタイミングなどどれほど神経質に考えることもないでしょう。アプローチはニュートラルに近い一定速度で降下してきて、地面が近づいたところでバーを押し出せばそれでまず問題なくフレアがかかって安全に着地できます。

 しかし気流が不安定な場合は安全のために速度を増した状態で降下する必要があります。それで無事地面に近づいたところで減速しますが、余分な速度を消化するためにしばらく水平飛行することになります。そうなるとフレア開始のタイミングに気を使う必要が出てきます。

 まだ速度が十分速いのにフレアを開始すれば機体は予定外に高度を上げ過ぎてしまいます。そして空中でノーズが上を向いたまま失速したら、そのあとは悲惨な状況が待っています。逆に減速しすぎて完全失速が目の前なのにまだノンビリと押し出してフルフレア動作をしなかったら、そのあとも悲惨な状況が待っています。では最後の水平飛行の中でいつフレア動作を開始すれば良いのか。その合図になるのがニュートラルです。



 水平飛行を維持するためには、ニュートラルよりもバーを引き込んだ状態から次第に減速するにつれてバーを前に戻していくことになります。そしてやがて手に力がかからなくなるニュートラル状態になります。そこから先はバーを押し出していきますがすぐに失速になるでしょうから最後は一気に目いっぱいバーを押すことになります。つまり、ニュートラルを過ぎてからの一連の押し出す動作がそのままフレア動作ということです。ですから着陸時においてもニュートラルを確実に感じ取れさえすれば、危険なほど早すぎるフレアをすることもなく、対地速度に惑わされることもなく、いつも的確なフレアのタイミングが判断できるということです。ニュートラル後のさらに微妙なタイミングについては、機体の特性や体重との兼ね合い等でそれぞれ違うでしょうから、毎回同じライン取りでアプローチするように心がけて、その中で自分の機体のクセを把握すとよいでしょう。

 加速して降下し水平飛行に移ってから減速していってフレアというアプローチパターンは、失速速度が速めな上級機で確実に減速着地するために基本となるパターンです。ですので低速が効く初級機に乗っている人も、次の機体に安全に乗り換えるためにもこのようなアプローチを普段から練習していてください。

 さて、ニュートラルは手に感じるバープレッシャーが無くなるポイントですが、ではそれを確実に感じ取るためにはどうすればいいか。ランディング時でもやはり余計な力を抜いていた方が良いということです。ランディング時、特に地表のサーマルの動きが活発な時などは最後の最後まで気を抜けず力が入るものですが、それでも最後の最後の最後、フレアをかける直前だけは余計な力が抜けていた方がいいです。身体をしっかりと起こして、そして可能ならばフレア前の水平飛行時にアップライトを完全に握らず親指を離して、引き込む力だけをバーにかけるようにして、その力を次第にゆるめていくようにします。それで指がバーから離れたらニュートラルですから、そこから先は一連のフレア動作になります。このようにすればフレアのタイミングは完璧に判断できるでしょう。いつもそんな事をしろとは言いませんが、弥彦のランディングでは気流が安定している場合が多いですから、十分に試すチャンスはあると思います。

 そしてタイミングの判断ができたらあとは押し出していけばよいのですが、ここで狙ったとおりに機体を失速させるために必要なのが、困ったことに体格の良さ。失速するノーズの角度は機体によってほぼ決まっていて、そこまで確実に押し出せるためには最低限の腕の長さが必要です。ですから背の高い人はあまり神経質にならなくてもいつもちゃんとフレアができるでしょうが、小柄な人やハーネスを低くセットしている人などは、十分にバーを押し出す事ができずに苦労することになります。ハーネスも、起き上がると身体がずり下がる仕組みになっている物が多くありますが、これは小柄な人には逆効果のはずです。

確実にフレアをかけるには、
  • なるべく起き上がりの良いハーネスを選択する。
    (起き上がりの悪いハーネスだと良い位置を持つためにずっとアップライトによじ登っている必要があり、ニュートラルの判断が難しくなります。)
  • 多くバーを押せるように上の方を持つようにする。
    (あまりに上すぎてもだめです。一番いい手の位置は、だいたい起き上がった姿勢での肩の高さと同じ位置です。)
  • 脚を後方に伸ばしてバンザイの格好でフレアをかけるようにする。
    (バーを押し出すということはつまり後方への体重移動です。脚を前に出していたら、全体の体重移動量が少なくなります。)
  • 地面に足が着くくらい引き付けてから少し上昇する軌道を取りながらフレアをかける。
    (ただしタイミングがおおざっぱ過ぎては危険です。決してニュートラル前から急な押し出しを開始しないように。)
といった事に気をつけたいところですが、実際には多くのハーネスは起き上がりが悪く、ある程度アップライトによじ登って身体を起こした状態にしていないと確実なフレアをかけられない、しかしアップライトによじ登っていては的確なフレアのタイミングを感じ取りにくい、といったジレンマがあります。これは各個人で折り合いをつけるしかありません。

 小柄な人に適した設計の機体は実際ほとんど有りません。小さい翼面積の機体はあっても、フレアのかけ易さまでは考慮されていないでしょう。背の高いテストパイロットにはわからない苦労です。グライダーメーカーは滑空性能ばかり追い求めずに、もっと安全性も考えてほしいと思いますが、現状はそう簡単には変わりません。いろいろと試行錯誤して、パイロットの能力で安全に地上に帰らなければいけません。



2008/05 改訂

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