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コラム「彫刻稽古」

イメージを高めるために

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 ちょっと前になりますが、間伐材を有効利用して、家具などのデザイン提案しようというムーブメントがあって、その一部を坪源も製作することになりました。
 その時の作品はこれ。
 まあ、普通の鳥のカービングといったところですが、羽根を広げた形状がなかなかうまくいかず頭を抱えていました。
 トップページでも「うまくイカン」と毎日のようにぼやいていました。先方からの資料を観てもいまいち判断出来ない。また、坪源が遙か下方の下請け(曾孫請けくらいにはなっていたんじゃないか?)の為、直接中心になっているデザイナーとコミュニケーション出来ないという、非常に困った状況下での製作となってしまった。
 とはいえそこは坪源のこと、それなりの作品をでっち上げて作り上げて納品となったのだが....どうも納得がいかない。「俺ってこんなもの?」という疑問がむくむく頭に広がっていった。そこで....

稽古だ、修行だ

 なにもせずに悩んでばかりいても腕は上がらない。実行あるのみ。
というわけで、まるでデザイン学生が石膏デッサンするように、私も鳥の彫刻を作ることにした。純粋に腕磨きの為にやるのでもちろん完成しても売るあてもない。せっかくだから近々ある県展にでも出展しようかと思う。

何を作るかはコレhakusei.jpg羽根を広げたカモの剥製

 最近の悩みの種「羽根」をもう少し重点的にやってみよう。確か昔、坪源にいた職人さんもコレと似たような物を作っていたと思うが(坪源カタログお持ちの方は表紙参照)ある意味、坪源のデコイ制作の原点がここにあるといったところなのかな?
 ちなみに昔作ったカタログ表紙の鳥は現在売れて(30万円だったかな?)うちにはありません。しかもこのカタログ作ったときのごたごたでポジフィルムまで紛失してしまった始末。しょうがないなあ....カタログ製作したのは私だが(←おいおい)

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 例によって帯鋸で大まかな形に切り裂く。しかしまあ、いざこうして実物を見ながら作るというのはなんと作りやすいことか。今までこのような依頼は全て写真や図鑑など平面資料を観ながら作っていったのだが、やはり立体製作は立体を観ながら作るのが一番作りやすい。必要なら実際に手にとって触ることもできる。見た感じと触った感じでは、触った方がイメージ膨らませやすいんだと、この歳になるまでわからなかった。そんな機会もなかったからね。

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ご覧のように羽根には大きな節がボン
節というのはそこから木が枝分かれしていった部分なんだよね

 さて今回製作に使った材料ですが、この前作った鳥の檜材を工場まで送ってもらったときに梱包補助の為に一本よけいにくくられていた杉材を使いました。建材用だと察せられます。芯持ち材です。
 芯持ちとは年輪の中心が材料に含まれている材料です。工芸などでは捨てられてしまう部分です。なぜ芯持ちが工芸に向かないかと言えば、いずれ月日が経つとひび割れの入る可能性が高いからです。すでにひびが入っている場合もあります。
 それなら、なぜ今回このような材料を使ったかといえば、手頃な材料がなかったから...ではなくて、ちょっと考えがあってです。状態のとても良い桂材なんか(デコイの主材料だから)それこそ売るほどあります。


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作業場の風景愛用のノミとリュータ
リュータはビッティー作るときには従兄弟から借りたが、今度はちゃんと買いました。
一台あると便利。しかし高い....

 先に書きましたが、間伐材を有効利用して家具などのデザイン提案しようというムーブメントのこと。やはり木材を使って仕事する物にとっては気になる部分です。
 近年環境規制などで木工関係の産業廃棄物の規制が大変厳しくなっています。ダイオキシン問題などが大々的に取りざたされて、自社工場内の焼却炉による廃材焼却の規制が厳しくなりました。幸いというか、坪源ではそこまで大々的な焼却設備もありませんし、焼却で頭悩ますほど廃材もでません。仕事がないから(←おいおい)そんなこともありまして「捨てない木工」というか「材料に依存しない作品」を作ってみたくなったのです。


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全パーツができたところ
このあと接合部分を研磨する。

木などは本来、節やキズ、ひび割れや虫食いがあってあたりまえなもの。そこでそういったキズのないきれいな素材で作られた工芸品ほど高級品として重宝されてきましたが、そんな良い材料が無限にあるわけがありません。(坪源のように景気の良かった昔に買いだめしたのが、いまだに残っているなんてこともありますが)そこで今回はかなりヒドイ状態の材料をあえて使ってみました。
 さらに踏み込んだ話になりますと、展示した際ぜひ自分の手でさわってみて欲しいのです。展示場に飾られている大抵の作品は禁触です。
 そんな仰々しくしなくとも形の妙ってヤツを触ってもらうことで感じて欲しいのです。ゴミみたい(というかゴミだけど...)な材料で作った作品なら触りやすいでしょう。もちろんそんなにペタペタ触っていては手垢で汚れてしまいますが、そこがまたいいんです。人間の手垢、というか汗も自然の仕上げ剤。たとえば使い込まれた職人さん達の道具が黒光りしているなんていうのは、その道具を愛用している職人さんの人生そのものを表現している素晴らしい作品だと思いませんか?私はそう思います。
 触っているだけならいいが、うっかりキズを付けたり壊したりしたらどうするんだ?と怒られそうですが、キズなどは作る前からビシバシ入っています。私の生きている限り壊れた物は修理します。(もちろん有料...あ、これが狙いか?)いや、割りと真面目にそう考えていますよ、ほんと。


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一番難しい羽根の接合。
羽根の付け根部分を
エンドレスサンダーで平らにする

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羽根の根本には強度を持たせるため
竹の心棒を入れる。
芯穴の径にあわせて竹を削る。

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ようやく片方の羽根が付いたところ。
羽根の付け根がひ弱に見えますが
かなり強度はありますよ。

完成した羽根をひろげたカモ
仕上げにはいつものようにAUROのビーズワックスです

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うーん「70点」....
マア、出来はともかく(←おいおい)かなり楽しく製作できました。
空を飛んでいるイメージというよりも「撃ちおとされた鳥」ってかんじですね。
じゃまあ、どこかに出展するときは「墜落」みたいに、もっともらしくタイトルつけてみましょうか。
なんか他にもまた作ってみたくなりました。
材料は....そうですね、今度は解体工事している住宅から出たような産業廃棄物で作ってみたいですね。
かすがいのあとがぽっかり空いていたり、ひびが入ったり虫が食っていたりするようなヤツで。
(あんた、「ゲージュツ家」のクマさんみたいになるつもりかい)
あ、いやそりゃちょっと....
(2002年4月24日)