『柿の味』

平成十三年十二月二十日 加茂法話会
  1. 先日福岡県の学友、中嶋師から大きな柿が沢山送られてきた。学友といっても、五十才を過ぎた大先輩である。私は、中嶋師の声を聞きたくなり、お礼がてら電話をした。すると中嶋師は、「只、私は貴方に柿を送りたいと思って一方的にした事だから、気を使わないで欲しい。」というのである。

  2. 九州福岡からやってきたこの柿は、私が幼少の頃庭先に実った柿の味と同じだった。九州の柿が、子供の頃に過ごした部屋や、当時満喫した秋の匂い等、幼き頃の私を蘇らせてくれた。

  3. 平和や、幸せというのは、こうした日常生活の営みに潜在していることに気付かされた。柿の味、焚き火の香り、こたつの匂い、こんな暮らしの匂いが人の心を養っていくように思う。手作りの、手間のかかった生活の匂いは体が覚えている。戦争の匂いの中で育った人たちは、どんなにか切ない思いの中に心を閉ざして行くことだろう。

  4. 私達一人一人がこの生活の匂いを作るお役を頂戴している。夏は冷たい湧き水の香り、秋は柿の実の風味、落ち葉炊きの匂い、どれも今ここには無いように思う。(湧き水が出ない実態)現在、私達に課せられた環境問題は、心をも左右するということである。私は、わが子にどんな味、どんな匂いを残して行けるだろうか。一日一日を大切に暮らして行きたいものである。

見附市 天徳寺 副住職 中野尚之 合掌