平成二十一年九月三十日 加茂法話会
【本則】
挙(こ)す。世尊(せそん)霊山(りょうぜん)に在(ましま)して、百万衆前(ひゃくまんしゅぜん)に拈華瞬目(ねんげしゅんもく)したまえば、迦葉(かしょう)破顔(はがん)微笑(みしょう)す。
世尊(せそん)衆(しゅ)に告(つ)げて曰(のたまわ)く。吾(わ)が有(う)の正法眼蔵涅槃妙心(しょうぼうげんぞうねはんみょうしん)をば、摩訶迦葉(まかかしょう)に付嘱(ふぞく)す。
将来(しょうらい)に流布(るふ)して断絶(だんぜつ)せ令(しむ)ること勿(なか)れ。
乃(よ)って金縷(こんる)の僧伽梨衣(そうぎゃりえ)を以って迦葉に付(あた)えたもう。
頌有(じゅあ)り。頌(じゅ)は開口(かいく)の口頭(こうとう)に分付(ぶんぷ)す。
【大意】
首座が言葉で提示する。釈尊が霊山に一座の大衆の前に、金波羅華の一枝を拈じて目をまばたきをされたら、摩訶迦葉のみがその意味を知り、顔をほころばせて微笑された。
釈尊は大法を迦葉に授け、将来にわたって教えを広め、決して断絶してはならないと言われ、こがね色の糸の大衣(九条衣以上の袈裟)を迦葉にお与えになった。
さてこの本則に対して頌があるが、開口一番、誰が挑んでくるのか
□諸仏の常法、かならず糞掃衣(ふんぞうえ)を上品(じょうぼん)とす 正法眼蔵・袈裟功徳の巻
「諸仏の決まった教えでは、捨てられたぼろ布を拾い集めて製作した衣(袈裟)が、僧侶にとって最も優れた衣類とされる。」
□故永平寺副貫首・楢崎一光老師のお示し。(昭和六十年十一月 袈裟授与式のお祝いお言葉より)
「皆さん、何日もかけて、尊い御袈裟を縫い上げられ、誠におめでとうございます。しかしながら、これからお家へ帰る間に交通事故に遭うかもしれない。また、二三日後に不治の病で倒れるかもしれない。あるいは、家族の中に病人が出るかもしれない。でもそれを決して、この御袈裟のせいにはしないでくださいね。」と言われました。
□釈尊の最も大切な教えに「三法印」
諸行無常・・いろいろな縁の和合によってくつられたものは、何一つとして恒常な存在はない。
御袈裟を縫ったという事実は、過去のこと。
諸法無我・・すべてのつくられたものには実体がない。いっさいの存在が因縁和合の仮の姿。
私が此れだけいい事をしたのだから、何か素晴らしいご利益を期待することを戒めている。
涅槃寂静・・心静かな涅槃の境地。
只 その時、その事に、前後を忘れて専念することこそ、心安らかな境地である。
これこそ、最高のお祝いのお言葉だった。
東龍寺住職 渡辺宣昭 合掌