ピピピ、ピピピ、ピピピ。

「ん……」

 携帯の目覚ましが鳴っている。
 そちらのほうを見ずに腕を伸ばし、目覚ましを止める。
 そのまま眼前に持ってきて、ディスプレイをまだぼやけてる視界で見る。

「ふゎ……しまった、日曜日なのに目覚ましセットしてたんだ」

 A.M.6:30という表記と共に、日付の横に示されてる(sun)の文字。
 そういえば、先週みんなで出かけるから日曜日にも普段と同じ目覚ましセットしてたの、忘れてた。
 一瞬もう一度寝ようかと考えるけど、一度目が覚めてしまったからこのまま起きようと思い直す。
 たまにはこういう日もいいだろう。
 そう思ったら、もう一度寝てしまわないうちに布団から出る。
 うー……でもまだ少し頭がぼーっとするよ。

「真人は……よかった、起きてないね」

 日曜日なのにこんな時間に起こしたとなったら、真人に怒られるところだった。
 といっても、もう30分もしたら起き出してきて朝のトレーニングに行くだろうけど。
 それよりも、

「ん……なんか声変かも」

 寝起きのせいか、いつもと少し声の調子が違う気がする。
 昨日は少し寒かったし、もしかしたら風邪を引いたかもしれない。
 そういえば、身体の調子もどこか普段と少し違う。
 調子が悪い、とまではいかないから引き始めか、前兆かな。
 今日は少し暖かめの服にしておこう。

「んーと、長そでどこにしまった、か……な?」

 寝間着にしてるTシャツを脱ぎながら服を探そうとしたところで、動きが止まる。
 思わず手を戻して、Tシャツを着直す。
 うん、気のせいだよね……
 そう思い直してもう一度服に手をかける。
 ……さっきは一瞬で気のせいだと思った感触が、もう一度手に伝わってくる。
 脱ぐまでは……手に当たるまではまず気付かないくらいの小さい変化。
 けど、明らかに間違いな感覚が手に当たっている。
 たっぷり30秒ほど固まったあと、意を決して服を脱ぐ!

 直後、僕の叫び声が朝の男子寮内に響き渡った。



『直枝理樹ちゃんの受難』
   〜初日、受難始まりの日〜




 しばらくしたのち、僕たちの部屋にリトルバスターズの面々が早朝にもかかわらず集まっていた。
 その視線は、全部僕に向いている。

「ふぇ〜……」
「むぅ……」
「これは」
「またなんと言えばいいのやら」
「わふ〜……ほんとにリキですか? あ、いえお顔はリキそのものですけれど……」
「うん……悲しいことに正真正銘僕だよ……」

 まだ放心しきった状態で、なんとかクドの質問に答える。
 正直、まだ頭も心も今の状況に全然付いていけてない。

「オレもよ、理樹の叫び声で起こされた時は驚いて飛び起きたけどよ。理樹を見たらさらに驚いて動きが止まっちまった」
「ふむ……理樹、昨日何か変なものでも食べたか?」
「ううん、これといって特には……」

 ああもう、何が何やらさっぱりだ。
 思わず頭を抱えてそのまま床にうずくまる。

「ふむ、とりあえずだ理樹君」

 頭を抱えてる僕を見ながら、来ヶ谷さんが凄い真剣な顔で言ってくる。

「とりあえず、お持ち帰りしていいか?」
「よくないよっ!!」

 あまりに真剣に言う来ヶ谷さんに思わず今の状況も忘れて全力で突っ込みをいれてしまう。
 それと同時に、今まで思考放棄と現実逃避をしてた頭が一気に現実に引き戻される。
 うあぁ……どうしてこんなことに。

「いや、しかしだな理樹君。今の君は何と言うか、その、とてもヤバい。お姉さん思わず理性をなくしそうだよ」
「怖いこと言わないでよっ! 今は本気で怖いからお願いだから理性を保って!!」
「しっかし……疑問や常識なんかはとりあえず置いておくとして……完璧に女の子だな、理樹」

 そう……何がどうなってるのか自分でもさっぱりわからないけど、今の僕は……
 その、女子になっている。
 ……うわああああああああ!! 改めてそう考えるだけで何もかも忘れて逃げ出したくなる。

「見事に少年の苦悩が見て取れるな。……ああ、今は少年ではなく少女だったな」
「うっ……あんまり考えたくないから、はっきりいわないで」
「でも確かに、一瞬見ただけでは気づきにくいが背は若干低くなってるし……その、なんだ。胸も少し出ているな」
「おまけに声も少し高いな。まぁ理樹は元々女みたいな声だったからあまり変わらないけどな」
「鈴……それじゃ慰めにならないよ」
「ん、そうか? 変わらない所があったからいいんじゃないのか?」

 まったく分かってない鈴の様子に、思わず肩が下がる。

「まぁ、なってしまったものは仕方ないだろう。色々疑問は残るが、とりあえず今の理樹は女子だ。それに違いはない」
「仕方ないだろうって、そんな投げやりなっ」
「あれこれ悩んだってしょうがないだろ。とりあえずは今ある問題の解決だ。違うか?」
「う……それは、そう、だけど」

 自信たっぷりに恭介に言われると、そうなのかと思ってしまう。
 確かに……なっちゃったのはしょうがないし、とりあえず目の前の問題を片付けるしか、ないのか、な?

「って違うよっ! そうだけど、そうじゃないよ! だって女の子だよ!? どーして体が変わっちゃってるのさ!?
普通は勝手に性別は変わらないよっ! というか、どー考えても無理でしょこんなこと!?」
「だが、現にそうなってしまっている。原因は不明だが、とりあえず今の理樹の体は女になってしまっている。
 原因を取り除いて元に戻すとしても、とりあえずはすぐ戻るなんてことは期待しない方がいいだろう。
 なら、今やることはその体でいることの問題を無くすことだ。そうじゃないと、動くに動けないだろう」

 そう言われると、確かにそうだけど……

「そ、それよりみんなはどうしてそう平然と受け入れてるのさ!? 普通もっと疑ったりしないの!?」
「いやだってなぁ……背を伸ばしてごまかすならともかく、縮んでるのを見るとな」
「確かに、これは受け入れざるを得ないだろう」
「うんー。それに、理樹君かわいいよ〜」
「はいです。リキ、とっても可愛いですっ」
「前に女装させて遊んだ時も思ったけど、理樹くんやっぱりそっち方面の才能あるですよ」
「女の体に男の心をもった直枝さん……それはそれでアリです」
「理樹は元々女の子っぽい所があったからな。そんなに違和感はないぞ」
「オレは部屋でまずありえないものをみたしな」
「なにっ? つまり真人少年は理樹君の裸を見たというのか!? 写真は撮ってないのか?」
「いや、撮ってねえよ。というか、撮ってどうするんだよ」
「無論、焼き増ししてさらには拡大して鑑賞するにきまっているだろう」
「そこっ! 怖い話しないでよっ!!」

 というか、なんでここのみんなはこう平然と受け入れてるんだろう……
 普通はもっと、こう疑問を持ったり調べたりするんじゃないんだろうか。
 それとも、僕の感覚の方が実は変なのかな・・・…ここにいるとそう思ってしまう。

「む、ところでしょうね――いや、理樹くん。そのTシャツの下の胸はもしかしなくても本物なのか?」

 どこか怖い目で僕の胸元を見ながら(ちなみに、驚いて放心状態のまま服を着直してきたので、僕だけTシャツにジャージのままだ)

「いや、訂正しないで少年でいいよ、というか是非そう呼んでください」
「無理だ。今の理樹君はまごうことなき女の子。そんな理樹君を少年とは呼べない。それよりも本物なのか否か吐け」
「ぅ……ちゃんと確かめた、わけじゃないけど……本物だと、思う。やっぱりなんか少し違和感あるし」

 改めて認識すると、手をついて落ち込みそうになる。
 というか、なんでこの人はそう変な所に真剣なんだろう。

「ふむ、ならば一応確認せねばなるまい。どれ、お姉さんに少し触らせろ」
「い、嫌だよっ! 普段の来ヶ谷さん見てたら『うん、いいよ』なんて言えるわけないよっ!」
「だが、もしかしたら気のせいという可能性もあるかもしれないじゃないか。実は誰かがこっそり理樹君に豊胸パッドを仕込んでいて、
背はトリックアートでごまかしたり声もヘリウムとかで弄っているとか」
「そんなの付いてたらさすがに分かるよっ」
「ふむ、分かるということはつまり理樹君は過去に付けたことがあるということか? いやはや、理樹君もなかなかいい趣味を」
「そんなわけないでしょっ! 付けたことなくてもそんなのがついてたら違和感で分かるでしょ!」
「だが、万一ということもあるだろう。だから私が見て触ってついでに揉みしだいて調べてあげようと」
「それでも断るよっ! そんなこと言われたら余計に来ヶ谷さんには調べられたくないよ」
「くっ……しまったつい本音が……だが、どちらにしてももう一度確認した方がいいだろう。理樹君もまだまじめに調べてないだろう。
パッと見てとれる変化以外にも何か他に重大な変化があるかもしれないしな。一度ちゃんと調べるべきだ」
「それは、そうだけど……」

 というか、たとえ自分の体でも気恥ずかしくてとてもじゃないけど調べられない。

「ふむ、まあ流石に自分の体でも女の子の体は恥ずかしくて調べられないだろう。鈴君、小毬君」
「ん?」
「ふぇ? なーにゆいちゃん」
「理樹くんの体を調べろ。とりあえず胸が本物かどうかだけでいい。流石に下はまだ理樹君も抵抗があるだろう」
「ん、わかった」
「うん、いいよー。じゃあ理樹君、ちょっとこっち来て〜」

 ちりんとすずを鳴らしながら頷く鈴と、笑顔で了承してる小毬さん。
 結局調べられるんだ……でも、来ヶ谷さんよりはずっとマシかな。
 それにこの二人なら、まだいいほうかもしれない。

「……チ、やはりここでは調べないか」
「とりあえず、今のうちに打てる手は打っておくか」

 二人に連れられて脱衣所に連れていかれる背後で、不穏な声が聞こえた気がするけどとりあえず忘れることにした。






「で、どうだった?」

 脱衣所から出て開口一番、来ヶ谷さんが聞いてくる。

「本物だった」
「うん。服着てて分かりづらいけど、意外と理樹くんは着やせするタイプでしたっ」
「ちょ、ちょっと小毬さんっ!そんなこと言わなくていいよ!」
「ほう。なるほどなるほど」

 うう、思い出すだけでも恥ずかしい……

「それにね〜肌も完全にすべすべで、正直ちょっとうらやましいくらいです。きめ細やかで透き通るような白さです」
「もう完全に女の子だな、理樹」
「うう……なんかもう男として終わった気分だよ」

 上半身を脱がされて、ぺたぺたと二人が触ってくるのを思い出すとそれだけで泣けてくる。

「くっ……おねーさんがそれを調べられなかったのはとてもショックだ……」

 また本気で嘆いている来ヶ谷さん。
 というか、この体になってから来ヶ谷さんがちょっと恐怖の対象になりつつある。
 と、来ヶ谷さんに対する認識を少し改めていると真人がおもむろに気づいたように言いだした。

「ちょっとまてよ……理樹が女になったってことはだ。俺とルームメイトになれないじゃねぇかよ!!」

 って、気にするのそっちなの!?

「うむ、このまま理樹君を男子寮に置いておくのはとても危険だ」
「そーですネ。今の理樹くんは可愛いから、正直気をおかしくした男子たちに食べられちゃいますヨ」
「ちょ、っちょっと葉留佳さんっ。怖いこと言わないでよっ!」
「でもー……確かにその可能性はありそうです。リキは少し女の子としての自覚を持つべきだと思います」
「僕は男だよっ。って、今の体で言っても説得力がない……」
「男の心を持って女の体になってしまった直枝さん。それをみて徐々に魅かれて行き、やがて抑えきれなくなった恭介さんに
食べられてしまう直枝さん……それはそれで、アリだと思いますよ?」
「ってちょっとまて。狂うのは俺なのかよっ!!」
「西園さんも不穏なこと考えないでっ! 恭介はそんな趣味ないよ、ねぇ!」
「ああ、もちろんだ。例え女子になったところで理樹は男だろう。流石にそういう対象には……ならないだろう」

 ちょっと恭介、今の間はなに!? というか、最後一瞬視線逸らしたよね!?
 西園さんもその微笑でこっち見るのは怖いからやめてっ

「ということになるわけだ。なので、理樹君は私が責任を持って女子寮に持ち帰らせていただく」
「ちょっと待てよ。理樹のルームメイトはオレだぜ。来ヶ谷の勝手にはさせねぇ」
「ほう、では君はこのまま理樹君がここにいても問題はないというのか? 今の理樹くんは純情可憐な少女だ。
こんな野蛮な男どもの巣窟になど置いておけるものじゃない」
「ちょっとまって、いつの間に僕の設定そんな風になってるの!?」
「なに、さほど変わりはあるまい。その体を見るにおそらく筋力なども落ちているだろう。
もともと華奢な理樹君だ。いとも簡単に組み伏せられるだろうな。そしてそのまま純潔の花弁を散らすことになるのだ」
「そんときはオレが守ればいいだけだ」
「如何に真人少年が強豪のつわものでも、常時理樹君を守るわけにもくまい。それに、女子が男子寮で暮らすこと自体が問題だ」
「う……そう言われると、そうだけどよ……」
「さらに、例え真人少年だったとしても同じ部屋というわけにはいかないだろう。必然的に理樹君は一人部屋に移らざるを得ない。
どうだね少年、それでも理樹君を守り通せるというのか?」
「それは……くそっ、すまねぇ理樹。オレは、お前を守るための力が足りなかったみたいだ……」

 床に手をついて、自信をなくしている真人。
 いや、まぁなんというか……見事に来ヶ谷さんの流れに乗せられていた。

「で、でもだからって僕が女子寮に行くのも問題があるんじゃ……」
「その点は心配ない」
「恭介?」

 携帯をパタンと閉じながら、恭介はそう自信を持っていう。
 というか、今まであまり話に入ってこないと思ったら電話してたのか……
 そういえば、なんか「手を打っておく」とか言ってたっけ。
 でも、いったい何の手まわしをしてたんだろう。

 と、考えているとコンコン、と部屋のドアがノックされる。
 こんな朝早くに誰だろう? と思っていると恭介が「お、きたきた」といった表情でドアの方をみる。

「開いてるぜ」

 みんながだれだろうと思っている間に、恭介が勝手に返事をして部屋に入るように促す。
 そして、ドアを開けて一人の女子が部屋に入ってきた。







○理樹ちゃんによるあとがき



「ちょっと、なんで僕がいきなり女になっちゃってるのさ!」

――いやほら、やっぱりリトバスネタの基本の一つだし。

「だからって、もうやってる人いっぱい居るでしょ! というか、第一あれは女装だよ! しかも来ヶ谷さんの所為で!!」

――うーん……でもほら、被っても書きたいし? ここのはほら、完全に女だし

「もっとタチが悪いよっ」

――まぁまぁ、大人しく女になっちゃいなよ、ゆー

「小毬さんのマネしてもダメ! というか気持ち悪いからっ」

――うーん、でもね? KeySSって代々女化しちゃうSS多いんだよ。
   ONEの浩平しかり、Kanonの祐一しかり

「……Airの国崎さんとかCLANNADの岡崎は?」

――ぶっちゃけAirとCLANNADのSSって読んだことないから知らない

「それじゃ代々じゃないじゃん!」

――でもほら、SS界でもかなりの数があるONEとKanonでは割とよくあるから、うん。これでおっけー

「ぜんっぜんオッケーじゃないよ!」

――でも、もう書いちゃったし。というか、あたしが描きたいのはただ一つだっ

「……なにが書きたいのさ?」

――それは、今後の展開を追ってごらんあれ! ほら、ぶっちゃけあれだよ。理樹君が女の子になっちゃったのはあくまでついでだよ

「ついでで僕は女にされたの!?」

――まぁ、リトバスで一番弄りがいがあるからってのもあるけど、半分くらいかな、理由は

「はぁ……もういいや。僕帰るね」

――うむ、次回もよろしく

「絶対出ないよっ!」

――けど残念、もう3話までは完成しちゃった

「……うわああああああああああああああああああああああ!!」



 というわけで、ある意味不幸な理樹くんの様子を楽しみつつ、暇な方はお付き合いください。
 なお、このSSを思いついたきっかけは

・マジキュープレミアム リトルバスターズ!4コマ漫画 3巻の 胡せんりさんの4コマ
・遥か昔、KanonSSであった祐一が女になるSS「CHANGE!?」
・および古いKanonSS、謎ジャムで祐一が、果ては北川まで女になって結局北川だけ戻れないSS(タイトル忘れました)
・原作での女装イベント?
・リトバスSS「花ざかりの理樹たちへ」

 正直、最後の一つがあったから公開するか悩んだけど、まースイさんはスイさん風に女になった理樹を書いて楽しもう!
 って理由だけで書きすすめようと思います。

 まだまだリトバスSSは数書いてないので、キャラの固定化が難しいですが、どうぞよろしくお願いいたします(ぺこり)




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