合気道を始めた日
               初段 神子島 剛男 
 私は三条合気道会に所属しており同市の体育文
化センターで主に練習しております。そして時々
吉田合気道会や燕合気道会の方々にも教えてもら
っています。
 私が合気道と出会ったのは十年前でした。当時
人間関係を形成することが苦手だった私はある方
から次のようなアドバイスをされました。「職場
では人間関係に慣れることは難しいのではないか。
何か習い事をすれば共通の話題もできるので何か
探してみてはどうか」と。そこで私は体を動かす
ものがよいと考えました。若い頃より空手がした
かったので探そうと思いましたが、当時の私には
その手段がなく友人に尋ねました。彼は「市政だ
よりに書かれているのではないか」と答えました。
さっそく市政だよりを開いてみますと、初心者教
室の募集をしていたのが合気道でした。当時合気
道については名前を聞いたことがあるくらいで、
どんな格闘技なのか全く知りませんでした。たぶ
ん打撃系格闘技なのだろうと思い込んでいました。
 参加の申込みをするために体育文化センターに
行きました。この施設に入ったことは中学生の時
           

に一度あったくらいで施設内に柔道場があること
すら知りませんでした。申込みを済ませて帰ろう
とした時合気道のポスターが目に留まりました。
小手返しの瞬間の写真なのですが受けの方が飛ん
で受けていました。もちろん当時の私にはそのよ
うな知識もないので人が空中に浮いているように
見えました。「合気道とは一体どんなことをする
のだろう」と首をかしげました。それと同時に恐
怖感にとらわれました。高校生の頃学校の体育の
授業で柔道がありました。たったの四〜五回位で
したが、その時させられた受け身がすごく痛かっ
たのです。それ以来受け身に対して恐怖を持ち続
けていました。「もし受け身があったらどうしよ
う」と、かつての恐怖が蘇ってきました。
 そして当日、小心者の私はかなりビビリながら
柔道場に行きました。柔道場に入るのはこの時が
初めてでした。この時の初心者教室は十人以上の
方が参加されていました。「よくわからないけど
合気道って人気があるんだな」と、のん気に思い
ました。しかし指導者の方々が私達に技を見せて
くれましたが、しっかりと受け身を取っていまし

た。受け身恐怖症の私は「このまま逃げてしまお
うか、初心者は大勢いるのだから、一人くらい消
えても大丈夫だろう」とも思いました。しかしそ
れまでの私は何に対しても中途半端で止めてしま
うことが多かったので、せめて今回は初心者教室
の終了までは頑張ってみようと思い直しました。
とまどいは他にもありました。柔道場の正面には
神棚があり、その正面に向かって礼をする、とい
う行為に対して抵抗感がありました。またいわゆ
る「体育座り」を道場内ではしてはいけないとい
うことも何故なのか解りませんでした。実際にこ
の日ほかの参加者が「何故いけないのですか」と
尋ねていました。指導者の方々が親切なことにも
驚きました。
 「こんなに一生懸命教えてくれるけど、この方
達にどんな利益があるのだろう」と思っていまし
た。私達の参加費で賃金がでるともおもえません
し、今となっては笑い話かも知れませんが「もし
かして、みんな警察関係の方なのかな」などとも
思いました。ボランティアでここまでできるとは
当時の私には考えられませんでした。

 初心者の方もさまざまでした。私より少し年上
で雑学の豊富な方、元気のよい高校生達、空手等
武道経験のある方、そして中には(たぶん御自宅
から)体育文化センターまでランニングしてきて
合気道に参加して、帰りも走って行かれていた大
学生くらいの方もいました。この方達すべてと親
しくなったわけではありませんが対人関係の形成
が苦手だった私でも話ができる方に出会えました。
そして秋になり初心者教室は終了となりました。
私はこのまま続けることにしました。「合気道の
魅力にとりつかれた」というような格好のよい理
由ではなく、なんとなくこのまま去るのは寂しか
ったので残りました。翌年の春には正式に入会し
て現在に至ります。
 合気道を通じて教わったのは、礼法、受け身、
そして「脱力」という考え方です。まだ若かった
私は相手は力任せに倒せばよいと考えがちでした
が、合気道の技は力を抜かないとかかりません。
また、相手のことも考えるということの大切さも
知りました。私はこの後他の武道や格闘技にも興
味をもちそれぞれの試合に出させていただきまし


たし、段位の取得もできました。しかし、しばし
ば合気道に原点回帰してきます。変な話になりま
すが睡眠中の夢の中で暴漢達に囲まれたときに出
てくる動きは合気道です。また実際にあった話で
すが、変質者に付きまとわれたこともありました
がこの時も合気道の動きで手を吊り上げて追い払
うことができました。合気道の技でなら相手に怪
我をさせずに済むと思ったからです。
 十年前の初心者教室の方々と会うこともなくな
りました。定期的に練習しているのは私だけにな
りました。やはり寂しいです。短気で不器用な私
は先生方にいろいろとご迷惑をおかけしました。
また練習中に怪我をしたときもありました。そし
て、はずかしながら段位もいただきました。受け
身恐怖症だった私が今では昇級審査や昇段審査の
受け身を頼まれるようにもなりました。相変わら
ずの不器用で先生泣かせの私ですが今も合気道を
続けています。合気道との出会いは人生の転換点
ともいうべく私にとっては貴重なものです。