昔、まだ私が30代のころ、担任をしていたときのこと。ある女の子の家庭訪問に行くと、お父さんとお母さんが出迎えてくれました。間もなくして、その子もお父さんの隣に座りました。
この女の子は、明るく元気で、誰にもやさしく、どのスポーツ・運動もできる子でした。困ったことがないと伝えようと思っていたら、話の途中で、お父さんが、「先生、うちは、物事の善悪を厳しく指導しています。人に迷惑をかけるなと教えています。ですから、もし、言って分からなかったら、グーでげんこつして教えてやってください。父親の私が許可します。大丈夫です、私もそうですから」と言いました。
もちろん、当時もそんなことしませんと伝えましたし、グーのげんこつが要らないくらい、今きちんと頑張ってくれていますから、大丈夫です、というような話をしました。でも、このおうちの子育ての考え方は、私に強く伝わってきました。子どもも、こうやったら(何か悪いことしたら)「親が怒るな」「親が心配するな」、「生きていく上で、悪いことはしちゃいけない」「人に迷惑をかけちゃいけない」って感じていたと思います。
親だからといって、げんこつして良いわけではありません。脅しのような声を掛けて良いわけではありません。しかし、自分の子です。しっかり話を聞いたり話したり、共感しながらも時には親の願いを目を見てしっかりと伝える必要はあるでしょう。子どものいいなりになるのはダメだと思います。愛情をかけることといいなりになる(子どもの思いを全て受け入れる)ことは違います。ならぬものはならぬのです。やるべきことはやるのです。
いつの日か、子どもとの関係が対等になり逆転するとき(高校?大学?成人?)がくるでしょう。でも、子どもが小中までは、しっかり話し合って、しっかり話を聞いてやって、最後は親が指導(ときには親子で決め)し、子どもが目指すべき方向を示してやる必要があると思います。子どもの対応・指導等の際、大人一人で難しい場合は、一人で抱え込まず、家族や他の大人の協力が大事になります。お母さん、お父さん、おじいちゃん、おばあちゃん、親せき、その他の大人(カウンセラー・専門員、友達の親、地域の人、学校職員、医療・外部機関の人と協力して)で、子どもの成長を支えていかなければなりません。
いつか大人になる我が子です。今、その子のために親として語れることは、膝を交えて躊躇無く伝えてください(怒ったりどなりつけたり、いやみを言ったりやる気をそいだり、本人の自己肯定感を下げたりするような話・言い方では意味がありません)。いつかは分かってくれるだろう、いつかは治るだろう、いつかは辞めるだろうという親・大人のスタンスでは、解決しないことが多いように感じます。